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おはなしおはなし(1)

私が表現したくてもできないでいたこの何年かの間、その苦しさを救ってくれたのは
「構想」という雑誌でした。
私はこの「構想」に、小説ともなんともつかないものを書き連ねていくことで
自分がだいぶん楽になったのです。
その「構想」が編集人の「旅立ち」のために終刊となることになりました。
そのことを惜しみつつ、また、今まで「場」を提供してくれたことに感謝して
今まで「構想」に載せてきた自分の表現を、ここに晒してみようと思います。
なお、「構想」は、ここでも読めますので、他の人の作品はぜひこちらでお読み下さい。

では、私が最初に載せた駄文を。「構想」第2号でした。

********************************
寒くなってきたね。ちょっと間があいてごめん。
 ところで、名古屋と東広島の間を毎週のように往復していると、いろいろ奇妙なことに出会うよ。今日はその話をしてみるね。
 君も知っているように、僕は、名古屋に自宅を構えながら、仕事の関係で東広島に、ふだんはいる。東広島の家には洗濯機がないものだから、かつ、名古屋の自宅のパソコンが壊れてしまっているものだから、僕はほぼ毎週、愛機iBookと汚れた洗濯物をバッグに詰め込んで帰る。
 新幹線の中というのはなぜか落ち着くので仕事めいたことなんかしちゃおうか、なんて思いながら、重いiBookをバッグから引っぱり出すと、 哀れiBookは、 僕のパンツをひっかぶって新幹線車中に現れる。あわててパンツを脱がし、「ご開帳!!」とばかりラッチを開いてみれば、そこには昨日書きかけの手紙がはさまっていた。「パンツの中の手紙かい!!」と一人ほくそ笑む、気持ち悪い、僕。
 そういえば、昨日の夜書ききれなくて「残りは、明日の新幹線で書こう」と手紙をiBookにはさんだま ま寝てしまったんだった。
 「すみません。」
 「へ、あ、はい。」
 急に、隣の席の派手派手ネクタイおじさんが話し掛けてきたよ。
 「それ、iBookですよね。」
 「あ、そうですけど。」
 「譲ってくれませんか?」
 意味が分かって意味が分からないということは「恐い」ということが、よく分かった。僕は、「くれませんか」の一言で、頭が高速回転に動き始めていた。この場から逃げるためには、愛機をくれてやってもいい。
 「譲って下さい。」
 「いや、このパンツは、か、買ったばかりですので」
 「嘘、でしょう。そのパンツ、古いですよ。」
 「すみ、すみません。嘘つきました。」
 「その手紙、ですけど。」
 「手紙?いや、これは私が昨日書きかけた手紙でして・・あ、いや手書きですけど、多分iBookを台か なんかにして書いていたのだと」
 「それは、私の手紙です。」
 そうか、愛ちゃんはこんな派手派手ネクタイおじさんともつきあっていたのか、電話をかけたらちょっと怒ったような声で、でもすばやく「ごめんね、愛の言葉は手紙にしてね」と言いやがったのは、そういうわけか。じゃなくて。
 「あ、いや、これ、私が昨日書いた手紙です。」
 「それは、確かに、あなたの手紙でしょう。でも」
 「でも?」
 「私の手紙でもあるんです。」
 「は???」
 のぞみが今日はいやに遅い。まだ、新大阪にも着いていない。新神戸付近のトンネルの中で、会話は続く。
 「手紙をよく見て下さい。」
 なんのことやらわからん。愛ちゃんに出す手紙をとにかく見てみた。
 
 それは驚くべきことだった。僕が書きかけた便せん、愛ちゃんへの言葉の後に続くはずの空白に、なにやら焼き印のような模様が並んでいた。
 便せんを焦がしてできた模様、それは確かに、文字だった!!
 「???」
 「これは、私の文字です。いや、正確には、文字の跡です。」
 「わからないです。全然わかりません。」
 「この便せんは再生紙です。」
 「そう、です。」
 「この便せんが前のサイクルで紙だった時に、私の文字が書かれたのです。それが、今、この便せんに再生している・・。」
 あ、それで再生紙と言うのね。じゃなくて。
 「それじゃあ、この便せんの前世が文字になってあらわれたとでも言うの?」
 「文字の前世・・ほほう、あなた、うまいですね。」
 「い、いやあ・・」
 「譲って下さい。」
 速い、この返し。
 「あのね、紙が再生される時はね、いろいろな紙がごちゃごちゃに混ざってどろどろになってそれで、再生されるのでしょう?どうして、前の紙がそのまままた一つの紙になって、しかも、前と同じ組み合わせで繊維が並んだりするわけ?」
 「同じようには並んでいません。けれど、ほら。」
 確かに、文字は読めるようには並んでいない。抜けている所も多い。でも、??。
 「どうして、文字が見えるんですか?どろどろになったはずなのに」
 「紙の繊維にしみ込んだインクは、溶けません。」
 「それが残っていたと?」
 「私が書いた紙が溶かされる時に完全にばらばらにならずに、再び再生されたのでしょうね。」
 そんなことって、と声に出して言いかけたけど。
 「ああ、なるほど。では、なぜ文字が浮かんだのでしょう。」
 と、まるでワトソン。
 「それは、わかりませんね。私にも。」
 って、おじさんも、なぜか探偵、入っている。
 「ただ、しみ込んだインクが熱せられれば、浮き出るとは聞いたことがあります。」
 「・・・あなた、そんなに自分の手紙を追い掛けていた?」
 「・・・手紙は、みんな因縁めいたものでしょう?」
 「えっ、ええ。」
 確かに、メール全盛のこの時代、わざわざ手紙を書くのは、跡を残したいという熱い願望があるから。熱い思いを愛ちゃんに伝えたいから。熱い?そういえば、iBook、今日開けた時熱かったぞ。と、強引な 展開。
 もしかして、スリープのままだった?
 「あの、 どうも昨日コンピュータを終了させずスリープのままで閉じたみたいなんです。 で、 この iBook、最近ちょっとおかしくてスリープにしても時々起きて、またスリープをする、の繰り返しで。」
 「熱くなっていた。」
 「多分。それで、暖められて、文字の亡霊がでやがった、ということかな。」
 「あなたの、ずぼらのおかげですね。」
 むっとするなあ。
 「で、この手紙、ゆずっていただけますか?」
 いや、そういうわけにはいかん。女房に黙って出している、愛ちゃんへの手紙。単身赴任の生き甲斐の手紙を、他人に読まれてなるものか。恥ずかしさ、丸出しだわ。
 「あなたの欲しい、亡霊の文字の部分だけ切って渡せばいいでしょう?」
 「いや、みてごらんなさい。あなたが書いたところにも、私の文字が。」
 あらら、僕が愛ちゃんにしたためた文字と、おじさんが残した亡霊の文字がごちゃごちゃ。なにやら気持ち悪いぐらい、いい感じの模様になっている。縄文式土器のような。
 「あなた、これは出せないでしょう。」
 確かに。しかし、このおじさんも読めないのでは?
 「どうせ、私にももう読めないですよ。ただ、私が書いた文字の亡霊を弔ってやりたいだけで。」
 ちょっと、待って!!この人が書いた文字、ということは、この手紙の前世の手紙も、相手に届いていない?相手に届けれられず、この世から消えていた文字を、なぜこの人は執拗に追い掛けるの?しかも、読んでも、読めないのに。
 のぞみは、新大阪を過ぎ、いつのまにか京都に近付いていた。
 「私は、京都で降ります。すみませんが、この手紙、譲って下さい。」
 僕は、このおじさんが何がしたいのか、ようやくぼんやりわかってきた。このおじさん、手紙を相手に届ける気はなかったんだ。相手に届けるつもりで書いて、それを、郵便システムではなく、リサイクルシステムにほうり投げていたんだ。読めないようになって自分の手許に帰ってくることを願って。
 京都駅が近付いてきた。
 「おねがいします。ずっと、探していました。」
 「これ、あげません。」
 「えっつ?」
 「手紙は、相手に届けましょう。出した人ではなく、出した相手に届けましょう。」
 「誰に?」
 「ははっつ、僕の手紙の相手の愛ちゃんに。あ、愛ちゃんっていうのは、文通相手でしてね、文通というと古くさいですけれど、これがなかなかいいもので。一人暮らしのポストに手紙が届いた時など、どんなに嬉しいか!」
 「探していたのです。それにそれを届けても読めないでしょう?」
 「手紙は文字を読むものではないでしょう?それに、分からなければ、愛ちゃんは聞いてきますよ。聞けるのだから。あ、着きました。じゃあ、お元気で。」
 
 というわけなんだ。今回手紙が遅れたのは、こういうわけなんだ。同封したのが、例の手紙。読めないと思うけれど、がんばって読んで。できたら、僕が何を書いたかこんどの返事で書いてみてよ。当たったら、プレゼントあげるよ。あ、それで、終わったらシュレッダーにかけてこなごなにして。文字の亡霊が二度と復活しないようにね。こっちの手紙じゃないよ。では、返事待ってる。

愛ちゃんへ

難 波 博 孝

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